
■ 損切りを制するものはFXを制する
「自分が決めたトレードルールを守ることが大事です。」 「損切りするのは大切です。損切りできないと大変なことになります。」
これらは、書籍やブログなどで頻繁に出てくる言葉です。 以前、あるラジオ番組で「なぜなくならない?薬物依存と向き合う」というテーマの放送がありました。その中で、主治医の先生がある患者の言葉から考えさせられ、治療法を根本から見直すきっかけになったエピソードが紹介されていました。
主治医は患者に対して、こんこんと薬物の恐ろしさや、使い続ければ体にどんな悪影響を与えるかを話します。患者はしばらく静かに聞いていましたが、主治医の言葉をさえぎるようにこう発しました。
「先生、薬物を続けるとどうなるかは、先生より自分のほうが良く知っている。どうなるかじゃなく、**『どうすれば薬物をやめることができるか』**を教えてほしいんや。」
私も、トレードに関して同じようなことをよく思いました。 書籍やブログには「損切りすることが大事です」「損切りできないと大変なことになります」と書かれています。では、「なんで損切りできないのか」「どうしたら損切りできるようになるのか」、それを教えてほしいと……。
結局、この部分を突き詰めて考えていかないと、損切りはできるようになりません。損切りできないということは、FXで勝てるようにはならないということです。
絶対これだというものが全員に当てはまるかは解りませんが、私なりの「損切りできるようになるためのアプローチ」を2つ紹介します。
■ アプローチ1:損切りできない心理状態を知り、未然に防ぐ
『死ぬ瞬間』(死とその過程について)という書籍があります。 著者のキューブラー=ロスは、200人の死にゆく患者との対話の中で、人間が「死」を受け入れるまでには5つの段階があることを発見しました(※すべての患者が同様の経過をたどるわけではないとしています)。
実は、この5つの段階における心理状態と、「損切りできないトレーダーの心理状態」には明確な共通点があります。私自身の体験にもまさしく当てはまっていたため、自分の取っている行動や心理は、人間が本来持っている当然の防衛反応なのだと深く納得しました。
現在自分がどの段階の心理状態であるかを客観的に認識できるようになれば、より早く損切りへの躊躇を克服できるようになるはずです。
死を受け入れるまでの5段階と、トレード(損切り)の心理状況
第1段階:「否認」と「孤立」

不治の病を知らされたとき、患者は大きな衝撃を受け、「自分が死ぬということはないはずだ」と否認する段階です。
トレードでは: 自分が「買い」でエントリーした後、価格が逆行していくと、「おかしい。このチャート分析から価格は間違いなく上昇するはずだ」「経済指標が強いのだから下がるはずがない」と、目の前に起こっている事実を認めようとしません。含み損から現実逃避するために、自分に都合の悪い情報を遮断し、必死で自分に都合のよい情報だけを集めようとします。
第2段階:「怒り」(見当違いに当たり散らす段階

否認を維持できなくなると、怒り・激情・妬み・憤慨といった感情が取って代わります。「なぜ自分がこんな目に遭うのか」という怒りが抑えきれなくなり、周囲に当たり散らす段階です。
トレードでは: 買えば下がる、売れば上がるの繰り返しで思い通りにならず、画面に向かって声を荒げたり、物に当たったりと、相場への怒りを爆発させた経験が誰しもあるはずです。
第3段階:「取引」

「悪いところはすべて改めるので何とか命だけは助けてほしい」など、死なずにすむように神にすがり、取引を試みる段階です。
トレードでは: 「なんとか、今回だけはエントリー価格まで戻ってくれ!」「許容できる範囲の含み損まで戻ってくれ、何でもしますから……」と祈り、懇願します。「次からは絶対にルール通り損切りします。だから今回だけは助けて……」。しかし、神様との約束を守ったトレーダーは一人もいません。何度も何度も同じ失敗を繰り返し、そのたびに祈ることを繰り返します。
第4段階:「抑うつ」

取引が無駄だと認識し、運命に対する無力感、絶望感、意欲喪失に襲われ、何もできなくなる段階です。
トレードでは: 「もう価格は戻らない。最悪の状態だが切るしかない」と悟ると、とてつもない自己嫌悪に襲われます。「なぜ含み損が増える前に損切りできなかったのか」「なぜルールを守れなかったのか」。自分があまりにも哀れで無力な感情に支配されてしまいます。
第5段階:「受容」

最終的に自分が死に行くことを静かに受け入れる段階です。
トレードでは: 全ての希望を捨て、ようやく損切りボタンを押して確定的な損失を受け入れます。
この心理状態に陥らないためにはどうすればいいか?
突然の死の宣告は、思ってもみなかったことが起こるため、最初は信じられずに現実逃避してしまいます。トレードでも、「おかしい」「なぜだ」と現実逃避している間に含み損が致命的に拡大していきます。
これを回避するには、『相場では何事も起こり得る』ということを事前にしっかり認識しておくことです。
なぜ、経験豊富なプロトレーダーが損切りに対して素早い対応ができるかというと、『相場では何事も起こり得る』ということを、圧倒的な量の過去検証と実戦経験から、骨の髄まで理解しているからです。
プロトレーダー、ボブ・ボルマン氏の書籍には、こう書かれています。
「マーケットではすべてがグレーの霧のなかにある。白黒はっきりしていることなどどこにもない。長くトレードしている私は、どれほどあり得ないことでも起こり得ることを知っている。バックミラーを見ながら運転するようなトレードをしていれば、間違いなく資金を失う。」
取引量(ロット)を「はらはらドキドキしない金額」に落とす
同じ損切りでも、その損失額が耐えがたく受け入れ難いものであればあるほど、『死ぬ瞬間』のプロセスに陥りやすくなります。これを防ぐ最も効果的な方法は、取引量を極力下げることです。
質問です。あなたはポジションを保有している時、はらはらドキドキしていませんか?
「はい」と答えた方は、すぐに取引量を見直すべきです。はらはらドキドキしない金額とは、「失っても落ち込まない金額」ということです。この金額は、総資産額に関わらず、人のお金に対する価値観によって異なります。
自分の頭の中で想像してみてください。「自分はいくらの金額なら、1回に失っても全く気にならないだろうか?」 その答えの金額でトレードするようにしてください。
おそらく、今まで負けた分を取り返そうとしていた取引量に比べて、かなり少なくなるはずです。勝っても資産がほとんど増えないため、精神的にはかなり辛いトレードになります。 しかし、今までトータルで勝てていなかった人が、今のまま急に勝てるようになるでしょうか? 順番としては、まずルール通りに損切りを実行し「最低でもトントン(負けていない状態)」のベースを作ってから、取引量を増やすしか道はありません。
連敗確率を把握し、想定内にする
トレードを続けていると必ず連敗があります。 勝率50%の手法が連続して負ける確率は、以下の式で計算できます。
- 5回連続して負ける確率 = ( 1 – 0.50 )^5 = 約3.1%
- 10回連続して負ける確率 = ( 1 – 0.50 )^10 = 約0.1%
つまり、勝率50%の手法であっても、100回トレードすれば3回程度は5連敗し、1000回トレードすれば10連敗することもあり得るということです。 自分のトレード手法の勝率を過去検証ツール(Forex Simulatorなど)で徹底的に弾き出しておけば、「今回の損切りや連敗は確率論的に想定内だ」と冷静に受け入れることができ、第2段階の「怒り」や第3段階の「神への祈り」を未然に回避することができます。
■ アプローチ2:手法を駆使して損切りの苦痛を回避する
「どうしても負けること(資金が減ること)自体が嫌で嫌で仕方がない」という方には、以下の2つのアプローチ(損切り管理手法)が有効です。
1. ブレイクイーブン(建値)へのストップ移動
ある程度利が乗った時点で、損切りポイントを「エントリー価格(建値)」まで移動させる手法です。 例えば、利食い目標の半分まで利が乗った時点で、ストップをエントリーポイントに移します。こうすることで、うまく伸びれば利食いとなり、最悪逆行されても「プラスマイナスゼロ」でトレードを終わらせることができます。一度含み益が発生した後に損切りにかかる精神的ストレスを劇的に減らすことができます。
2. 分割決済(半分利食い)とストップの引き上げ
ある程度利が乗ったらポジションの半分を利益確定し、同時にストップを損益分岐点まで引き上げる手法です。 例えば、10万通貨でエントリーし、利食い目標が10pips、損切りも10pipsだとします。
- エントリー後、直近の流動性(Liquidity)を少し抜いた時点や、5pips利が乗った時点で、半分の5万通貨を利食い(+2,500円)します。
- ストップを当初の10pipsから「エントリーポイントの5pips下」まで引き上げます。
こうすることで、仮にここから逆行されて引き上げたストップにヒットしたとしても、先に利食いした+2,500円と、残りの5万通貨の-5pips(-2,500円)が相殺され、トータルでプラマイゼロになります。利食いした分を精神的な担保にすることで、相場の波に耐える心の余裕が生まれます。
損失を受け入れる心理メカニズムを理解し、検証に基づいた資金管理と手法を組み合わせることで、必ず「損切り」という壁は乗り越えられます。
