
トレードにおいて、なぜ私たちは同じ失敗を繰り返してしまうのでしょうか。
その最大の要因は、私たちが「人間」だからです。ここでは精神面・心理学の側面から、トレードで負けてしまう根本的な要因を探っていきます。
■ プロスペクト理論:人間は本来、トレードで負けるようにできている
「プロスペクト理論」をご存知でしょうか。人間はリスクを伴う意思決定の際に価値の感じ方が異なり、「利益を得ることよりも、損失を被ることをより重大に捉える」という認知心理学の理論です。 行動ファイナンスの権威であり、この理論でノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のダニエル・カーネマン氏は、意思決定の違いを証明するために次のような有名な実験を行いました。
質問1:
A:100万円が無条件で手に入る。
B:コインを投げ、表が出たら200万円が手に入るが、裏が出たら何も手に入らない。
- Aの期待値=100万円(100%の確率)
- Bの期待値=100万円(50%の確率)
期待値はどちらも同じ100万円ですが、一般的には堅実性の高い「A」を選ぶ人の方が圧倒的に多くなります。
質問2:あなたが現在200万円の負債を抱えているものとします。
A:無条件で負債が100万円減額され、負債総額が100万円となる。
B:コインを投げ、表が出たら支払いが全額免除されるが、裏が出たら負債総額は変わらない(200万円のまま)。
- Aの期待値=100万円減額(100%の確率)
- Bの期待値=100万円減額(50%の確率)
ここでも期待値は同じですが、質問1とは違ってギャンブル性の高い「B」を選択する人が多くなります。
トレードにおける「損大利小」の正体
この結果をトレードに当てはめると、人間の恐ろしい本能が見えてきます。 大きく利益を伸ばすチャンスがあるにも関わらず、「早く利確しないと今の利益を逃してしまうのではないか」という恐怖から、早々に利益を確定させてしまう。一方で、損失を出している場面では、「損失そのものをなんとか回避したい(負債をゼロにしたい)」というギャンブル的な気持ちが表れ、損切りが遅れてしまうのです。
つまり、買って少し上昇したら「下がると怖いからすぐ利確」、買って大きく下げたら「損を確定するのは嫌だし、戻るかもしれないから待とう」という行動になります。 多くの人は、トレードの理想である「損小利大」ではなく、無意識のうちに「損大利小」の行動をとってしまうということです。人間には儲けたいという欲望以上に、「損をしたくない」という本能(恐怖)が強く組み込まれているのです。
■ 脳科学が証明する「雪だるま効果」の恐ろしさ
以前、何かの書籍かウェブ上で解説されていた非常に印象に残る文章がありました。私自身がまさにそれを体感したことがあるため、深く記憶に刻まれています。
「神経経済学の研究調査によれば、トレーダーがトレードしようとしている時の脳のスキャン画像は、麻薬依存症患者が大麻を吸う時の脳のスキャン画像と同じ状態である。そして、結果がどうなろうと続けたいと思う願望が強くなる『雪だるま効果』と呼ばれる現象が共通して見つけ出された。悲しいことに、損失を被ったトレーダーはリスクを減らすことよりも、もっとリスクを取りたいと思ってしまい、その結果、口座は破産する。」
私はトレードを始めたばかりの頃、完全にこの状態に陥ったことがあります。 かなりの連敗が続いた後、その負けを取り返そうとエントリー資金(ロット)を増やし、やはり勝てずにさらに大きく負けました。自分でも「もうやめたほうが良い」と頭では解っているのに、自暴自棄になって無謀なトレードを続け、その挙句に市場から退場させられました。
この記事を読んでいただいている方の中にも、同じような経験をされた方がいらっしゃるのではないでしょうか。 特に、非常に疲れている時、何か大きな不安を抱えていて精神的に安定していない時、あるいはお酒を飲んで酔っている時などは、間違いなくこの状態に陥りやすくなります。もしトレードをしていてそんな精神状態になりかけたら、ぜひこの記事を思い出してください。
■ 敗因の歴史的要因(情報不足・思い込み・慢心)
林修(おさむ)先生が、歴史から学んだ戦いの「負けの本質的な部分」として、以下の3つの要因を挙げています。
- 情報不足(データ・検証不足)
- 思い込み(上へ行くだろうという勝手な予測)
- 慢心(2、3回勝つと「俺はできる」と勘違いしてしまう)
これらはまさに、FXで負ける要因そのものです。私も連続で予測通りに勝った時などは、「自分は天才かもしれない」と慢心してロットを上げ、その途端に大きく負けるというパターンを幾度となく経験しました。
※この「3つの敗因」と具体的な克服アプローチについては、当サイトの第1回記事である『トレードの敗因をデータと心理から徹底分析|情報不足・慢心・思い込みを排除するアプローチ』にてさらに詳しく深掘りして解説していますので、ぜひそちらも併せてお読みください。
■ 人間の本能に打ち勝つための「唯一の解決策」
プロスペクト理論や雪だるま効果の存在が「頭に予備知識として入っているか否か」では、雲泥の差があります。しかし、知識として知っているだけで勝てるほど、人間の本能は甘くありません。
トレードで一貫した成績を残すためには、こうした知識を前提とした上で、『Forex Simulator』のような検証ツールを用いて圧倒的な過去検証を行い、人間の感情や本能が入り込む余地のない「一貫したリスク管理ルール」を構築することが不可欠です。
客観的な統計データ(検証結果)を信じられるようになって初めて、私たちは自らの弱さである「プロスペクト理論」に打ち勝つことができるのです。
